こんにちは、株式会社Jingasの濱名です。
今日は、内定を承諾してもらったあとのお話をしたいです。書類も面接も内定も通り越して、あとは入社日を待つだけ、という状態からの話です。
こういう経験、ありませんか。
「承諾の返事も早かったし、条件でも揉めなかった。なのに入社の1週間前になって、やっぱり今の会社に残ることにしました、と連絡が来た」
エージェント時代、この電話を何度も受けました。正直に言うと、受ける側もかなりこたえます。そして毎回、原因は本人の気まぐれではありませんでした。
結論:辞退は承諾の瞬間ではなく、「承諾後の空白」で起きています
先に答えを書きます。
内定承諾は、採用のゴールではありません。候補者にとっては、そこからが退職交渉というもう一つの本番です。 そして会社側は、この期間だけ何も見えなくなります。
やることは3つです。
- 承諾したその場で、退職を切り出す日まで一緒に決める
- 引き止められることを前提に、想定される場面を先に言葉にしておく
- 入社日までの間、週に1回、こちらから連絡を入れ続ける
派手なテクニックはありません。ただ、この3つをやっている会社は本当に少ないです。承諾のハンコが押された瞬間に、その人を「決まった人」の箱に入れてしまうからです。
承諾は「ゴール」ではなく、退職交渉の「スタート」です
考えてみてください。候補者はこのあと、今の上司に「辞めます」と言いに行きます。
売買仲介の営業なら、追客中のお客様も、契約手前の案件も抱えているのが普通です。仲のいい先輩もいる。育ててもらった恩もある。そこに「来月末で辞めます」と切り出すわけです。
これ、婚活で言えば、プロポーズを受けたあとに、長く付き合っていた相手へ別れを告げに行くようなものなんですよね、、。承諾の返事をもらった側が「よし決まった」と安心している間、本人は一番しんどい交渉を、たった一人でやっています。
ここに会社が関与しないから、承諾後の辞退が起きます。
なぜ、承諾したあとに揺れるのか
構造は3つあります。
構造①:現職は「辞めます」と言われて、初めて本気になる
これが一番大きいです。
在籍している間、会社はその人の待遇を積極的に見直しません。ところが辞表を出された瞬間に、いきなり評価が始まります。「君がいなくなると困る」「来期からポジションを用意する」「給与も見直す」。
冷静に考えると、辞めると言うまで一度も出てこなかった話です。でも、去り際に初めて言われる「必要とされている」は、想像以上に効きます。人は、自分を必要としてくれる場所に残りたくなるものですから。
構造②:売買仲介は、歩合の「約束」で気持ちが動く
不動産営業ならではの構造もあります。
売買仲介の給与は、固定と歩合の組み合わせで決まります。だから現職が引き止めるとき、決まって出てくるのが「来期から歩合率を上げる」「来年から反響の配分を変える」という話です。
金額が確定していなくても、期待値だけで提示条件の差は簡単に埋まって見えます。ここで効いてくるのが、御社が内定時にどんな見せ方をしたか、です。「月給◯万円+インセンティブ」としか書いていなければ、比べる土俵にすら乗りません。給与の見せ方については不動産営業の年収・歩合の見せ方に基準をまとめていますが、要は具体の数字で示せているほど、口約束に負けにくいということです。
もう一つ、頭に入れておきたい数字があります。厚生労働省の「令和6年 雇用動向調査」によれば、転職した人のうち賃金が前職より増加した人は40.5%、減少した人は29.4%でした。つまり、転職すれば必ず給与が上がるわけではないというのが世の中の実態です。候補者本人も、うすうすそれを知っています。だから現職が「今より上げる」と言ってきたときに、揺れる余地が生まれます。
構造③:退職交渉は、ブラックボックスになっている
承諾から入社まで、通常は1ヶ月から2ヶ月あります。この間、会社側が候補者から聞ける情報は、本人が自発的に報告してくれた分だけです。
つまり、引き止めが始まっていることも、退職日で揉めていることも、こちらからは見えません。見えないまま日が過ぎて、ある日突然「残ることにしました」の連絡が来る。だから毎回、寝耳に水になるんです。
引き止めは、だいたい3つの型に集約されます
退職交渉の場に何度も立ち会ってきましたが、引き止めの言い方はほとんど決まっています。先に知っておくだけで、こちらの打ち手が変わります。
情の型:「ここまで育ててきたのに」「お客様に申し訳ないと思わないのか」。恩と罪悪感に訴えるパターンです。真面目な人ほど効きます。
条件の型:「給与を見直す」「来期は役職をつける」。構造②の話です。金額が確定していないのに、なぜか比較対象になってしまいます。
不安の型:「うちより小さい会社だぞ」「聞いたことのない社名だな」「行った先で通用しなかったらどうする」。これは、決めきれていない人に一番刺さります。
ちなみに三つ目に対抗できるのは、条件ではなく、選考中に本人がどう扱われたかです。中小・ベンチャーが知名度で大手に勝てないのは当たり前で、勝てる場所は候補者体験しかない、というのが私の考えです。ここは選考スピードの話と地続きです。
入社日が遅れるほど、気持ちは冷えます
もう一つ、辞退の温床になるのが「入社日がずるずる延びる」ことです。
「後任が決まるまで待ってほしい」「繁忙期を越えてから」「引き継ぎに3ヶ月かかる」。こう言われて、入社日が2ヶ月、3ヶ月と後ろにずれる。そして延びた期間の分だけ、確実に気持ちは冷えます。
ここで知っておいてほしい前提があります。民法第627条第1項では、期間の定めのない雇用について「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」とされ、雇用は解約の申入れの日から2週間を経過することで終了すると定められています。
誤解のないように書きますが、これは候補者に法律を振りかざさせるための話ではありません。就業規則で1ヶ月前と定めている会社も多く、実務では円満に辞めることを優先して調整するのが基本です。
大事なのは、引き継ぎの都合で入社日が無限に延びる、という前提が事実ではないと、採用する側が知っておくことです。「引き継ぎが終わらないので、あと3ヶ月」と言われたときに、それをそのまま受け入れるか、「では引き継ぎ計画を一緒に整理しましょうか」と一歩踏み込めるか。ここで差がつきます。
承諾日から入社日までの設計
では、具体的に何をするか。時系列で書きます。
承諾したその日にやること
一番効くのがここです。承諾の返事をもらったら、その通話や面談の中で、退職を切り出す日を一緒に決めてください。
「いつ上長に話しますか」と聞くだけです。ここで日付が入らない人は、まだ迷っています。逆に「明日の朝いちで話します」と即答する人は、まず抜けません。
あわせて、入社日を仮でいいので置きます。「◯月1日を目標に、遅くとも◯月15日」というレンジで構いません。ゴールが決まっていない交渉は、必ず長引きます。
切り出す前にやること
引き止めの3つの型を、先に共有しておきます。脅すのではなく、こういう言い方をします。
「たぶん、給与を見直すという話が出ると思います。そのときに思い出してほしいのは、今回転職を考え始めた理由です」
これだけで、当日の受け止め方がまったく変わります。想定していた展開と、不意打ちで言われる展開では、心の揺れ方が違いますから。
ここで効いてくるのが、内定を出す前に本人の志向性を握れているかどうかです。何を大事にして決めた人なのか。そこが共有できていれば、引き止めの場面でも同じ言葉を返せます。この握り方は内定辞退を防ぐクロージングに詳しく書きました。
切り出したあとから、退職日が決まるまで
週に1回、こちらから連絡を入れます。 内容は進捗確認ではありません。進捗を聞かれると、本人は報告の義務が増えたように感じます。
送るのは情報です。「初日はこういう流れになります」「担当エリアはこのあたりを考えています」「先週こんな案件が動きました」。入社後の景色が浮かぶものを、こまめに渡す。それだけで、今いる場所と行く先の距離が変わります。
もし退職日で揉めている様子が見えたら、入社日をずらす提案は、こちらから出してください。 人質にした瞬間、その会社は「融通のきかない会社」に変わります。日付を譲っても、来てもらえれば勝ちです。
入社の2週間前
初日の集合時間、場所、持ち物、最初の1ヶ月の流れを、書いたものにして渡します。口頭ではなく、あとから読み返せる形で。
ここまで来ていれば、あとは入社してからの話です。初月の設計は初月オンボーディングの型にまとめています。
NG例:承諾後にやりがちな、逆効果の関わり方
晒しておきます。どれもよかれと思ってやっていることです。
- 承諾後、入社日まで連絡が止まる:一番多い落とし方です。承諾した人は担当者の頭の中で「決まった人」に分類され、追客リストから外れます。候補者から見ると、熱心だった会社が急に静かになった、という体験になります。
- 「本当に大丈夫ですよね」と何度も確認する:不安が伝染します。確認ではなく情報を送ってください。
- 引き止めを笑う、現職を悪く言う:「そんな会社、早く辞めたほうがいいですよ」は絶対に言わないでください。そこは本人が長く働いてきた場所です。今の会社を下げられると、下げられているのは自分の選択になります。
- 入社日は動かせないと突っぱねる:交渉が長引いたときに、一番きれいに辞退される言い方です。
- 承諾後に条件を微調整する:「よく計算したら、この手当は入社半年後からで」。金額の大小に関係なく、ここで信用が切れます。承諾後の条件変更は、事実上の辞退宣告だと思ってください。
早見表:承諾日から入社日までのチェックリスト
そのまま使えるように、時系列で並べておきます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 承諾したその日 | 退職を切り出す日を一緒に決める。入社日をレンジで仮置きする |
| 切り出す前 | 引き止めの3つの型を共有し、転職を考えた理由を本人の言葉で確認する |
| 切り出した直後 | その日のうちに、どうだったかを一度だけ聞く |
| 退職日の交渉中 | 週1で情報を送る。揉めていそうなら入社日の調整をこちらから提案する |
| 退職日が確定 | 入社日を正式に確定し、書面で通知する |
| 入社2週間前 | 初日の集合時間・持ち物・1ヶ月の流れを書面で渡す |
| 入社前日 | 短く一言連絡する。明日お待ちしています、だけでいい |
よくある質問
Q. 承諾後の連絡は、どのくらいの頻度が適切ですか。しつこいと嫌がられませんか。 A. 週1回で、返事を求めない内容なら、まず嫌がられません。嫌がられるのは頻度ではなく中身です。「その後どうですか」を毎週送れば催促になりますが、「初日はこんな流れです」を毎週送れば案内になります。
Q. 引き止めにあっていると相談されたら、何と返すのが正解ですか。 A. まず、話してくれたことにお礼を言ってください。そのうえで、こちらから条件を上乗せするのではなく、本人が転職を考え始めた理由に話を戻します。上乗せ合戦になった時点で、資金力のある方が勝ちます。勝負する場所を間違えないことです。
Q. 現職が退職を認めてくれない、と言われました。会社として何かできますか。 A. 直接介入はできません。できるのは、入社日の選択肢を示すことと、引き継ぎの整理を一緒に考えることです。なお、期間の定めのない雇用であれば、法律上は解約の申入れから2週間で雇用が終了すると定められています(民法第627条第1項)。この事実を本人が知っているだけでも、交渉の景色は変わります。ただし、円満に辞めることを優先する場面も多いので、あくまで前提知識として持っておく程度がいいと思います。
Q. 承諾後に辞退されたら、その採用費はどうなりますか。 A. 人材紹介経由なら返金規定がある場合もありますが、そこまでにかけた時間と、埋まらなかった数ヶ月は戻ってきません。売買仲介で紹介会社を使うと1名あたり150万円前後になる話は人材紹介に150万円を払う前にに書きましたが、承諾後の辞退は、その穴をもう一度掘り直すのと同じことです。
Q. 入社日を延ばされると、現場が回りません。断ってもいいですか。 A. 断るより、条件を出すほうがうまくいきます。「◯月◯日までなら待てます。それ以降になる場合は、いったん相談させてください」と、レンジで伝える。ゼロか百かにすると、相手は言い出しづらくなって、結果として連絡ごと止まります。
濱名勇輝/元・不動産特化の人材紹介エージェント(株式会社Jingas COO)。エージェントとして上位の成績を残し、メンバーのマネジメントや教育制度の構築も担当。採用の現場を「送り出す側」と「育てる側」の両方から見てきました。
売買仲介の採用を工程ごとに見直すなら、売買仲介 営業の採用 完全ガイドにまとめています。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
承諾のハンコをもらった瞬間、採用は終わったように見えます。でも実際は、そこから入社日までの数週間が、一番静かで、一番人が消える期間です。しかもこの期間にかかる費用は、ゼロです。連絡を送るかどうか、それだけの話ですから。
とはいえ、日中は現場に出ている社長が、退職交渉の途中にいる人へ週1で連絡を入れ続けるのは、正直かなり難しいと思います。そこは、内定後のフォローから入社日の調整、初日の受け入れ準備まで、採用の実務ごと私たちが人の手で伴走します(基本料金は月額10万円)。まずは無料相談で、「今どの工程で人が消えているか」だけでも、一緒に見させてください。