こんにちは、株式会社Jingasの濱名です。
今日は、施工管理の採用でいちばん悔しい負け方、現職からの引き止めのお話をしたいです。
こんな経験、ありませんか。
「面接の手応えもよかった。内定を出したら、その日のうちに承諾の返事ももらえた。なのに二週間後に電話が来て、次の現場を任されることになったので、やっぱり今の会社に残ります、と言われた」
エージェント時代、この電話を何度も受けました。そして建設の会社の採用を見ていると、断られ方がだいたい同じなんです。条件が不満だった、という話はまず出てこない。出てくるのは、いつも現場の話でした。
先に結論:施工管理の引き止めは「工程」の顔をして来るので、本人には断れません
先に答えを言います。
施工管理の引き止めは、給与でも役職でもなく、「この現場が終わるまでは頼む」という形で来ます。
これが、他の職種の引き止めと決定的に違うところです。
給与を上げる、来期は役職をつける。こういう引き止めは、本人が天秤にかければ断れます。金額の話なので、比べれば済む。
でも「この現場が終わるまで」は、比べられません。断ると、会社ではなく一緒にやっている人たちを置いていくことになるからです。真面目な人ほど、ここで止まります。そして、採用する側が来てほしいと思う施工管理の人は、だいたい真面目です。
つまり採用する側から見ると、こういうことになります。
引き止めに負けたのではなく、引き止めが本人の手に負えない形で出てきているだけ。
だから打ち手も変わります。条件を上乗せして勝ちにいく話ではありません。
売買仲介の引き止めとは、型がひとつ違います
引き止めの言い方は、だいたいパターンが決まっています。情に訴える型、条件を後出しする型、不安を突く型。この3つと、それぞれへの返し方は内定承諾のあとに消える。現職の引き止めに負けない入社日までの設計にまとめました。売買仲介向けに書いた記事ですが、ここは職種を問わず同じです。
施工管理には、ここに4つ目の型が乗ります。
現場の型:「この現場、あと4ヶ月あるだろう」「今抜けられたら、誰が検査を受けるんだ」「次の現場、お前でいくって話が出てる」。
この型がやっかいなのは、言っていること自体は正しいからです。嘘ではない。現場は実際に動いているし、抜ければ本当に穴が空きます。
情の型や不安の型は、聞いている本人も「これは引き止めのための言葉だな」と気づけます。でも現場の型は、引き止めの言葉としてではなく、事実の説明として耳に入ります。気づけないものは、断れません。
現場の型が厄介な理由は、3つあります
理由①:断る相手が、会社ではなく人になる
施工管理の現場が工程でつながっていること自体は、施工管理は「すぐ来られる人」を条件にした時点で、いちばん採りたい人が外れますに書きました。ここで見たいのは、その構造が退職を切り出す本人の頭の中で何に変わるかです。
途中で誰かが抜ければ、その穴を誰かが埋めます。埋めるのは会社ではなく、隣にいる人です。
だから「辞めます」と言うとき、本人の頭に浮かぶのは会社ではありません。同じ現場にいる人の顔です。
引き止める側も、そこを分かっています。だから「会社が困る」ではなく「あいつが困る」という言い方になる。悪気があるわけではなく、それが本当のことだからです。
会社を天秤にかけるのは、できます。人を天秤にかけるのは、かなりしんどいんですよね、、。
理由②:日付が入っていないと、同じ言葉を次の現場でも使える
そしてもうひとつ。
「この現場が終わるまで」は、期限があるように聞こえます。ただ、その終わりが日付で言えるかどうかで、中身がまったく変わります。
竣工予定日を言えるなら、それは工程です。待てば必ず来ます。言えないなら、期限があるように聞こえるだけで、実は期限がありません。
そして期限が入っていない場合、現場は終わったら次が始まります。会社にとって、動いている現場がゼロになる瞬間はありません。だから同じ言葉を、次の現場でもう一度使えます。
私が実際に見てきた中でいちばん長かったのは、同じ理由で1年以上入社日が動き続けたケースです。本人に悪気はまったくありませんでした。毎回、本当に現場が始まっていたんです。
採用する側が知っておくべきなのは、ここだと思います。現場の型は、一度成功すると再利用されます。
理由③:送り出す側も、代わりを採れていない
もうひとつ、外から見えにくい事情があります。
現職が粘るのは、意地悪だからではありません。抜けた穴を採用で埋められる自信がないからです。
建築施工管理技術者の有効求人倍率は8.62倍です(出典:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag」ハローワーク求人統計データ・令和7年度)。全職業平均は1.25倍(厚生労働省「一般職業紹介状況」令和6年度)で、集計の範囲が違うのでそのまま並べられる数字ではありませんが、桁で見れば市場の張り方がまるで違うことは分かります。
さらに2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています(出典:厚生労働省「建設業の時間外労働の上限規制」2024年4月適用)。抜けた分を残っている人の残業で吸収する、という埋め方が、以前より使いにくくなりました。
つまり「後任が決まったら送り出す」と言われたとき、その日は本当に来ないかもしれない、という前提で聞く必要があります。
いちばん大事な見分け方:待つべき日付と、待ってはいけない日付
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
施工管理の採用では、内定から入社まで2〜3ヶ月空くのが普通です。工程で決まっている以上、そこは待つしかありません。この話は施工管理は「すぐ来られる人」を条件にした時点で、いちばん採りたい人が外れますに詳しく書きました。
ただ、この「待つのが普通」を知ると、今度はどこまでが正常な待ちで、どこからが引き止めなのか分からなくなります。
見分け方は、ひとつだけです。
日付が特定できるかどうか。
工程は、日付でできています。竣工予定日も、検査の日も、引き渡しの日も、工程表の上に固有の日付として乗っています。本人に聞けば、その日を言えます。
引き止めには、日付がありません。「落ち着いたら」「後任が決まったら」「区切りがついたら」。全部、カレンダーに書けない言葉です。
| 相手の言葉 | どちらか | 採用側の受け止め方 |
|---|---|---|
| 「3月20日が引き渡しなので、その後に」 | 工程 | 待つ。入社日を確定させて設計に入る |
| 「検査が2月の第2週なので、そこを越えたら」 | 工程 | 待つ。前後1週間の幅だけ見ておく |
| 「今の現場が落ち着いたら」 | まだ判定できない | その日はいつか、を本人と一緒に特定する |
| 「後任が決まったら」 | 引き止めの可能性 | 決める人と期限を確認する。決まらない可能性を前提に置く |
| 「次の現場の区切りで」 | 引き止めの可能性 | 次の現場は必ず始まる。同じ理由が繰り返される |
| 「繁忙期を越えてから」 | 引き止めの可能性 | 建設の繁忙期は毎年来ます |
右の列を「引き止め」と断じていないのは、本人がまだ言語化できていないだけのことがあるからです。頭の中では3月の引き渡しを見ているのに、口から出てくるのは「落ち着いたら」。これは珍しくありません。だから、決めつける前に日付を聞きます。
判定に使う言葉は、たった一言で足ります。
「その日は、いつですか」
日付が返ってくれば、工程です。日付が返ってこなければ、まだ引き止めの中にいます。
責める聞き方にしないでください。「本当ですか」でも「引き止められていませんか」でもありません。日付を聞くだけです。本人も、聞かれて初めて「そういえば、いつだ」と気づくことがあります。
打ち手①:切り出す前に、次のアサインが決まる時期を確認しておく
ここから、実際にやることの話です。
面接で現場の区切りや引き継ぎ期間を聞いておくのは、さきほどの入社日の記事に書いたとおりです。その上で、引き止め対策としてもうひとつだけ、別の日付を聞いておいてください。
「次の現場の割り振りは、いつごろ決まりますか」
これは入社日を聞く質問ではありません。退職を切り出すタイミングを決めるための質問です。
順番で考えると、はっきりします。
- 次のアサインが決まる前に切り出す → 会社は「じゃあ次は外しておく」と動ける。話は現場1つ分で済む
- 次のアサインが決まった後に切り出す → 「もう決まってるから」が出る。理由②のループに入る
同じ人が、同じ会社に、同じことを言っても、切り出す順番が1週間違うだけで交渉の長さが変わります。
多くの会社では、次の現場の割り振りが決まる時期はだいたい読めます。年度の切り替わり、着工の1〜2ヶ月前、月初の会議。本人に聞けば、たいてい答えられます。
聞いたうえで、こちらからはこう伝えます。
「無理に急いでほしいわけではありません。ただ、次の割り振りが決まってしまうと、ご自身が動きにくくなると思います。その前に一度、上長とお話しされておくほうが楽だと思いますよ」
ここで大事なのは、急かす言い方にしないことです。急かすと、本人の中で「新しい会社に追われている」という感覚になります。それは引き止めに使われます。伝えているのは、こちらの都合ではなく、本人が楽になる順番です。
念のため書いておくと、これは現職に先手を打って相手の判断を邪魔しよう、という話ではありません。本人が説明しやすい順番に整えているだけです。次の現場に組み込まれてから「やっぱり抜けます」と言うほうが、送り出す側にとっても手間が増えます。早めに伝わるのは、現職にとっても悪い話ではありません。
打ち手②:現職の口約束と、同じ土俵に立たない
現職が出してくるものは、だいたい決まっています。
- 「次はいい現場を任せる」
- 「来期は所長でいく」
- 「資格の費用は会社で見る」
- 「給与は見直す」
気づいた方もいると思いますが、これ、全部まだ起きていないことです。口で言えて、書面になっていない。
だから、上乗せ合戦をしないでください。給与を追いかけて金額で勝っても、その人は次も金額で動きます。そして上乗せした分は、先に入っている社員の給与とぶつかります。
代わりにやることは、ひとつだけです。
こちらは、決まっていることを紙で出す。
- 労働条件通知書を、承諾のタイミングで書面で渡す
- 入社後に最初に入ってもらう現場の見込み(用途・規模・役割・誰の下に付くか)を、分かる範囲で具体的に伝える
- 資格手当があるなら、金額と支給の開始月まで伝える
書面の出し方と、施工管理で条件がズレやすい項目は施工管理の内定は、口約束ではなく契約ですにまとめました。
この対比が効くんです。片方は「次はいい現場を任せる(たぶん)」、もう片方は「4月から◯◯の現場で、◯◯さんの下に入っていただきます」。
本人が引き止めの場で何と戦っているかを想像してみてください。戦っているのは、今の会社への恩と、まだ形になっていない約束です。そこに、形になっているものを1つ置いてあげるだけで、本人の足は地につきます。
ちなみに、こういう具体を出せるかどうかは、内定のときに急に決まる話ではありません。求人票の段階で「うちの現場はこういう現場です」と書けているかどうかと、たいてい地続きです。書けているか自信がない方は、施工管理の求人票セルフ添削チェッカーで12項目だけ見てみてください。登録は要りません。
打ち手③:「いつまでもお待ちします」は、いちばん危ない一言
よかれと思って言ってしまう一言があります。
「ご事情は分かりました。いつまでもお待ちしますので」
言いたくなる気持ちは分かります。採りたい人だから、圧をかけたくない。私も言ったことがあります。
でも、これはやめたほうがいいです。
期限のない待ちは、必ず延びます。 そして延びている間、本人の中でこの会社は「いつでも入れる会社」になります。いつでも入れる会社は、急ぎません。
正しいのは、こうです。
- 入社日は、仮でもいいので必ず日付で置く
- 日付が動くときは、理由と新しい日付をセットでもらう
- 新しい日付を置いたら、そこまでの連絡の頻度も置き直す(承諾後の連絡の設計)
「待ちます」ではなく「では、いったん5月1日で置かせてください。動く場合は、そのときの見通しと一緒に教えていただけますか」。この言い方に変えるだけで、空欄の日付が消えます。
日付が動くこと自体は、問題ではありません。危ないのは、動いたあとに次の日付が入っていない状態です。引き止めは、その空白の中で効きます。
承諾から入社までの連絡の設計そのものは施工管理の内定辞退を防ぐクロージングに書いています。
打ち手④:会社がやるのは、法律を教えることではなく、段取りを一緒に置くこと
退職の申し出について、民法が2週間という線を引いていること。そして、その線を候補者に使わせないほうがいい理由は、入社日の記事に書きました。同じ理由で、退職代行をこちらから勧めるのも違うと思っています。
ここでは、代わりに何をするかだけ書きます。
引き止めが長引く案件をよく見ていくと、本人が何も決めずに「辞めたいです」だけを持っていったケースが多いです。中身が空いていると、相手は埋めにきます。埋める材料が、次の現場の話なんですよね。
だから、切り出す前に3つだけ一緒に置いておきます。
- いつまでに切り出すか(打ち手①で確認した、次のアサインが決まる時期から逆算する)
- 誰に、どういう順番で話すか(直属の上長が先か、その上か)
- 引き継ぎで渡せるものを、いつまでに書き出すか
3つ目が、地味にいちばん効きます。引き継ぎ書が手元にある状態で切り出すと、話が「辞めたい/困る」から「この段取りでいけるか」に変わります。感情の話から、工程の話に戻せるんです。施工管理の人は、工程の話なら強いので。
NG例:引き止めに遭った内定者に、会社がやりがちな5つ
- 条件を上乗せして勝とうとする:勝っても、金額で動いた人は次も金額で動きます。そして社内の給与バランスが崩れます
- 「いつまでもお待ちします」と言う:期限がなくなると、日付は必ず後ろへ動きます
- 急に連絡を増やして詰める:本人は、今まさに現職と向き合っています。そこに追い打ちがかかると、逃げ場がなくなって黙って消えます
- 現職や上長を悪く言う:本人の選択そのものを否定することになります(理由は承諾後のクロージングのNG例に書きました)
- 「残念です」で引き下がって、そのまま終わる:現場の型は再利用されるので、今回の理由は数ヶ月後に消えます。縁を切らずに、次の区切りの日付だけ聞いておいてください
最後の1つは、とくに覚えておいてほしいです。引き止めで残った人は、半年から1年でまた動きます。残った理由が、本人の希望ではなく現場の都合だからです。だから、断られた時点で関係を閉じないでください。
チェックリスト:引き止めに負けないために、内定前後で確認すること
内定を出す前
- 今持っている現場の竣工・引き渡しの予定日を、日付で聞けているか
- 次の現場の割り振りが決まる時期を聞けているか
- 退職を切り出す時期を、次のアサインが決まる日より前に置けているか
- 誰に、どの順番で話すかを確認できているか
内定を出すとき
- 現職の口約束と並べられる「決まっていること」を、紙で渡せているか(労働条件通知書・配属先・資格手当の支給開始月)
- 入社日を、仮でも日付で置いているか
承諾のあと
- 連絡の頻度と、毎回渡すものが決まっているか
- 日付が動いたとき、新しい日付をその場でもらう運用になっているか
- 「落ち着いたら」「後任が決まったら」が出たときに、「その日はいつですか」と聞けているか
断られたとき
- 次の区切りの日付だけ聞けているか
- 半年後にもう一度連絡する前提で、関係を残せているか
よくある質問
Q1. 「あと1現場だけやらせてほしい」と言われました。待つべきでしょうか。
判断の前に、その1現場の竣工予定日を聞いてください。日付が返ってくるなら工程なので、待つ判断はありえます。返ってこないなら、待つかどうかを決める材料がまだ揃っていません。そして、日付が返ってきたときにもうひとつ確認してほしいのが、その日が「次のアサインが決まる日」より前か後かです。後なら、待っている間に次の現場に組み込まれて、同じ話がもう一度来ます。待つと決めるなら、この2つの日付を並べてから決めてください。
Q2. 上乗せ提示で対抗するのは、本当にだめですか。
だめというより、効きにくいです。施工管理の引き止めは条件で来ていないので、条件で返しても土俵が噛み合いません。そのうえ、上乗せした金額は入社後に既存社員の給与とぶつかります。出せるものがあるなら、金額ではなく確定している具体(配属先・役割・資格手当の支給開始月)を出したほうが、同じコストで効きます。
Q3. 内定者が、上長に切り出せないまま日だけが過ぎています。
切り出せない理由は、たいてい「何をどう言うか」が決まっていないことです。詰めるのではなく、言う中身を一緒に整理してください。退職の意思、希望する最終出社日、引き継ぎで渡せるもののリスト。この3つが手元にあると、人は動けます。それでも動かない場合は、本人の気持ちがまだ決まっていない可能性があるので、条件の再確認ではなく、何を大事にして決めようとしているかを一度聞き直したほうが早いです。
Q4. 引き止めで一度残った人に、また声をかけてもいいのでしょうか。
いいと思います。むしろ、そこは他社が空けている場所です。残った理由が現場の都合なら、その現場は必ず終わります。断られたときに次の区切りの日付だけ聞いておいて、その少し前に一度連絡を入れる。これだけで、次に動くときの一番手になれます。
Q5. 引き止めに遭いそうかどうか、内定を出す前に分かりますか。
完全には分かりませんが、聞いておくと精度が上がる質問はあります。「今の会社に、辞める話をされたことはありますか」です。過去に一度切り出して残った経験がある人は、同じ流れをもう一度たどる確率が高いです。そのときに何を言われて残ったのかまで聞けると、今回どこで止まるかが読めます。責める聞き方ではなく、こちらが段取りを一緒に組むために聞く、という前置きを必ず添えてください。
おわりに
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
現職の引き止めで人が消えると、こちらは打つ手がなかったように感じます。私もそう思っていた時期がありました。相手の会社の中で起きていることなので、手が届かない。
でも、何度も立ち会ううちに考えが変わりました。引き止めに強い会社と弱い会社の差は、内定を出した後ではなく、その前についていました。
日付を聞いているか。切り出す順番を一緒に置いているか。まだ起きていない約束ではなく、決まっていることを紙で渡しているか。
どれも、口説き文句ではありません。地味な確認です。ただ、この地味な確認をしている会社は、引き止めの場にいる本人の横に、ちゃんと立てているんですよね。
採用は、最後まで口説く仕事だと思っています。内定を出した瞬間に終わるものではなくて、本人が今の会社に「辞めます」と言い切れるところまでが、たぶん選考です。
次に良い人に会えたときは、日付をひとつ多く聞いてみてください。
施工管理の採用を最初から通しで見直したい方は、施工管理の採用 完全ガイドからどうぞ。
濱名勇輝/元・不動産特化の人材紹介エージェント(株式会社Jingas COO)。エージェントとして上位の成績を残し、メンバーのマネジメントや教育制度の構築も担当。採用の現場を「送り出す側」と「育てる側」の両方から見てきました。